東京高等裁判所 平成8年(ネ)3575号 判決 1996年10月30日
東京都目黒区中町二丁目三二番四-一〇一号
控訴人
篠塚賢二
東京都大田区中馬込一丁目三番六号
被控訴人
株式会社リコー
右代表者代表取締役
桜井正光
右訴訟代理人弁護士
野上邦五郎
同
杉本進介
同
冨永博之
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた判決
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 本件を東京地方裁判所に差し戻す。
二 被控訴人
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 原判決の引用
当事者の主張は、次項のとおり付加するほかは原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
二 当審における当事者の主張の要点
1 控訴人
原判決は、「原告の本件訴えは、一部請求の名のもとに<1>事件ないし<28>事件の各訴訟と実質的に同一の訴訟をいたずらに蒸し返すものであり、また、これまでに繰り返し理由がないとする裁判所の確定した判断を受けている<1>事件ないし<14>事件及び<16>事件ないし<27>事件の請求と実質的に同一の請求をするものであって、これまで極めて多数回にわたり被告に応訴のための負担を強いてきたうえに、更に被告に応訴のための負担を強い、被告の地位を不当に長く不安定な状態に置くもので、もはや一部請求とその後の残部請求が認められている趣旨を著しく逸脱したものであり、民事訴訟制度を悪用した、裁判を受ける権利を濫用する不適法なものであるといわなければならない。」と判断しているが、以下に述べるとおり、誤りである。
控訴人は、二つの会社の代表者であったが、昭和四二年一一月三〇日倒産のやむなきに至り、未だに経済的に恵まれていないため、債権を多数に分割せざるをえないという特別の事由がある。
また、本件訴えにおいて審理を求めている対象物は、複写機構を除いた、ロール紙を切断するカッター装置を施した本体に関するもので、本件考案の構成要件をすべて満たし、本件考案にいう「カッター装置付きテープホルダー」に該当する被控訴人製品であるのに対し、<1>事件ないし<14>事件及び<16>事件ないし<27>事件における対象物は、本件訴えとは異なり、複写機に装備されているロール紙(ロール感光紙)支持機構(本件考案にいう「カッター装置付きテープホルダー」に該当しない。)であったから、本件訴えと従来の訴訟とは全く別個のものであり、これを実質的に同一の訴訟ということはできない。
さらに、控訴人は、未だに法律知識も豊富といえず、本人訴訟を継続する非法律専門家であり、しかも、早期解決を目標として最善を尽くし続ける者であるから、民事訴訟制度を悪用するなどということは到底不可能であると同時に、到底思いも及ばないことが自明である。
したがって、原判決がいう「更に被告に応訴のための負担を強い、被告の地位を不当に長く不安定な状態に置く」ということも、「本件訴えは、訴権の濫用にあたり、訴えの利益を欠く不適法なもの」ということも、誤りである。
2 被控訴人
控訴人の右主張は争う。
第三 証拠
本件記録中の原審及び当審における書証目録の記載を引用する。
理由
一 原判決の引用
当裁判所も、控訴人の本訴請求は却下されるべきであると判断するが、その理由は、次項のとおり付加するほかは原判決「事実及び理由」の「第三 当裁判所の判断」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
二 当審における控訴人の主張について
原判決が認定した事実関係に照らすと、控訴人が訴訟の提起遂行をするには応分の時間と経済力が必要であるとしても、本件事案について、請求の対象となる期間及び製品をことさら細かく分割して一部請求を繰り返さなければならない合理的理由を見いだすことはできない。
また、控訴人は、本件訴えと従来繰り返してきた訴訟とは対象物を異にする旨主張するが、原判決が認定した事実関係に照らすと、本件訴えにおいても従来繰り返してきた訴訟(<2>、<15>、<16>及び<28>事件を除く。)においても、被控訴人製品について、本件考案の構成要件該当性の有無が判断され、ロール紙を切断するカッター装置を施した本体を含めて、本件考案の技術的範囲に属するか否かが判断されているものと認められるから、両者は実質的に同一の訴訟であることは明らかである。
したがって、控訴人の本訴提起は民事訴訟において要請される信義則に反するものであって、訴権の濫用に当たり、不適法というべきである。
三 よって、控訴人の本訴請求は不適法であって、これを却下した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 芝田俊文 裁判官 清水節)